こうの史代『長い道』を読む

『夕凪の街桜の国』があまりにも有名になりすぎて、そればっかり目につくものだから、4コマ時代の作風を忘れかけていたのですが、この作品を読んで「いや、『夕凪〜』はあれはあれでいいけど、やっぱりこの人はこういうのが面白いんだよなあ」と再認識しました。
なんというか、とにかく変なマンガである。荘介と道は一応夫婦だが、なれそめは道の父親が酔った勢いで荘介の父親に娘を(文字通り)くれてやったこと(ちなみにこの二人は初対面である)。荘介にとって道は全く好みじゃないけど、三日と職が続かないダメ人間なので、とりあえず稼いで家事もしてくれる彼女と一緒に暮らすことにする。でも浮気もする。ギャンブルもする。しかも隙あらば彼女を売り飛ばそうとする(!)。それだけ聞くと何だかものすごく悲惨な話のように思えるけれど、これが何だか妙に笑えて、しかもほのぼのした物語なのだから不思議だ。多分それは道というキャラクター(それは何となくこうのさんというキャラクターとも重なるような気がする)のなせる技なのだろう。
浮世離れしているけれど地に足が着いている。流されているようでマイペース。状況は悲惨なのに何故か可笑しい。「泣ける」とか「笑える」とか、一つのカテゴリだけで収まらない面白さがこのマンガにはあるなあ、と思いました。