浅暮三文『実験小説 ぬ』光文社文庫

大嫌いな豊粼由美が解説を書いていたため(下品なんだよ、この人)よっぽどやめようかとも思ったけれど、『異形コレクション』が割と面白かったので購入した浅暮三文の短編集。実験小説集である前半部分と、異色掌編集である後半部分とに分かれている。
うーん、楽しめたのは前半部分かな。それも既に読んでいた『喇叭』と『帽子の男』以上に面白かったものは特になかったと思う。次点が『線によるハムレット』と『参』かなあ。ただ「実験」というアイディア面に力を注ぎすぎたのか、オチがすぐに読めたり、結末が似たような作品が多かった気がする。

後半部分は正直言ってつまらない。「異色掌編集」と銘打ってはあるけれど、脱力系の一発ネタオチで済ませる小説を私は「異色」とは呼びません。
それにしても帯のアオリ文句『絶頂期の筒井康隆を彷彿させるアイディア』というのはいくらなんでも言い過ぎだろう。絶頂期の筒井作品はトラウマになるくらい面白かったですよ。


■「新潮文庫の100冊」を最初にはじめた新潮社はエライと思う。夏休みになると、何となく普段読まない文芸作品なんかを読みたくなるもんね。
そんなわけで現在柄にもなく大江健三郎『死者の奢り』などを読書中。しかし昔の人の文章は手抜きがなくていいですね。一行目から引き込まれます。固いけど、噛むほど味の出るパン(POULのパン・ド・カンパーニュみたいな)のよう。誰でもすぐに消化できる親しみやすさはないけれど、飽きのこない味がします。