『民族浄化』を裁く―旧ユーゴ戦犯法廷の現場から―:多谷千香子著

 米澤穂信の『さよなら妖精』のネット上の評判がかなり良いようですね。ユーゴスラヴィアが関係する話と聞いて、少し気になってるんですが今はまだ読まないつもり。
で、米澤穂信とは全く関係なくちょうどユーゴ関連の本を読んだので、もし『さよなら妖精』でユーゴに興味をもった方がいたら何かの参考になるかと思って紹介したいと思います。
 著者は2001年から3年間、オランダのハーグにある旧ユーゴスラヴィア国際刑事裁判所で判事を勤めた方です。チトーによって民族対立が封印された旧ユーゴが崩壊し、クロアチア紛争、ボスニア紛争コソヴォ紛争という民族間のすさまじい殺し合いが起きた経緯やその後の顛末について、国際社会の対応も視野に入れながら分かりやすく説明されています。俯瞰的な視点から書かれていますが、実際に携わった事件の描写などは非常にリアルで読んでいて辛くなります。
 幸いと言うか、日本が旧ユーゴのような民族対立状況に巻き込まれることは、まあないとは思いますが、それでもユーゴのように、何百年も隣人として付き合ってきた他民族との関係が、何らかの要因で悪化することは容易におきうると思います(というか今まさにそうなりつつあるような気がしますが)。
 ユーゴの場合、もともと民族間の溝はあったにせよ、『民族浄化』という過激な行為にまで彼らを駆り立てたものは、決して燻っていた積年の憎悪が自然発生的に爆発したわけではなく、民族主義的な権力者がメディアを操作して他民族への不安や憎悪をあおったり、民兵を使って治安を悪化させたりという人為的な外因だそうです。
 「※※国が日本を攻撃しようとしている」とか「※○国では日本人排斥運動が起きている」とかそういった報道、あるいはそうでなくともその国にネガティブなイメージを持ってしまいそうになるニュースは、その信憑性がどこまでのものかまずは自分で測ることが大切だと思いますが、仮に真実だとしても、必要以上に悪感情を持たないようにしたいなあ…と自戒したくなりました。自国に対してネガティブなニュースって、それを聴くだけで(流す側の意図とはとりあえず関係なく)なんだか「悪意の種」を蒔かれているような気がするのです。って何か本の紹介から外れてるし。