乙一ほか『七つの黒い夢』

乙一目当てで買っただけなので、まあそれほどがっかりでもなかったんですが。400円だし。
とはいえ全体のクオリティは正直なところ期待はずれ。面白かったのは乙一北村薫西澤保彦くらいでした。

  • 乙一『この子の絵は未完成』

「黒い夢」というタイトルから黒乙一作品を期待していたんですが、意外にも白乙一作品でした。いやでもこの人の発想力と文章の力はいいなあ。
あと、この人の小説の登場人物のどこか浮世離れした感覚が好きだ。「子供がにおいの出る絵を描いてしまう」という事態を「彼はまだ子供で、世界がどういうものか分かっていない。だから、そうなると思い込んで、うっかり間違えてしまうだけなのだ」と納得する貴女のほうがすごいと思います。いや好きですけど、こういうひと。

うーん…つまらない。恩田陸って、「図書館の海」しか持ってないし、長編読んだことないんですが、アンソロジーなんかで読むたびに自分には本当に合わないなあと思う作家。もちろんこの話はオチや筋を楽しむものではなく、幻想めいた雰囲気に酔うための作品なんでしょうが、全然酔えない。それっぽい雰囲気を出そう出そうとしているけれど、文章が致命的に美しくないんですよねえ…。「この程度なのか」というのが正直な感想。この作品で恩田陸という作家全体を評価する気はさらさらないですが(長編はもっと面白いと思う、多分)、これ読んだ後で長編にトライする気はちょっとわかない。

まずは正統派ホラー調のストレートなタイトルにすこしびっくり。こういうの書く人だったんだ。
ストーリーに目新しさはないんですが、部屋の中のわずかな明かりもめざとく見つけて次々に消していく描写には、いやが上にも恐怖心が増してきて、流石に巧いなあと感じました。
そつのない端正な一品料理という感じ。プロの仕事らしい作品でした。

ネットではこの作品の黒さが一番との声が高い。確かにあのオチは救いがなくてブラックですが、単に後味悪いだけの作品としか思えませんので評価は低いです。
(以下若干ネタバレ)
主人公が未知の物質を発見しないために、彼を環境保護分野の方向に進ませないために、彼の妹を植物状態にするっていうの指令の意味が分かりません。「必要最小限度の介入」って嘘つけ。もっと小さな介入の度合いで、(人道的で)、かつはるかに有効な方法はいくらでもあると思うんですが。こんなに頭が悪くて想像力の乏しい様って嫌だなあ。
で、「妹を植物状態にしなければならない」っていう前提自体にもう作品全体の悪意がほの見えて、オチの悪意さは何かもう「悪意のための悪意」にしか見えず、むしろ興ざめ。

設定は新井素子の「宇宙魚顛末記」を彷彿としました。あれは面白かったけどね。

西澤保彦も初読みですが、面白かったです。何といっても文章が、構成が巧い。ミステリとしても良くできてると思います。誉田哲也の作品より、こちらの方がブラックさは効いていると思うのですが。
(以下ネタばれ)読み終わった後、「沙里奈殺人予告(?)の電話をした男が、実は本当に例の殺人犯だった」という可能性を匂わせても良かったのでは(そのほうがホラー味は増すのでは)?と一瞬考えたのですが、やっぱりこの終わり方のほうがいい。「桟敷がたり」という作品タイトルテーマともしっくりくるし。
他の西澤作品も読んでみようと思いました。

この作品のネットでの評価が高いことを知って愕然としました。どこが面白いんだこれ。
まず致命的に文章が拙い。描写が無意味にくどい。
それと…作者が提示している「謎」がどうにも興味がわかないんですよねえ。全然謎っぽくない。これも文章が下手くそなせいか。
余談ですが、ネットを回っていて意外にスパムミートを知らない人が多いのにびっくりしました。一時期よく食べていたので。ハム&エッグならぬスパム&エッグで食べるのが自分としてはベスト。スパムはライトを使用。これにサルサソースをかけて食べるとくどくなくて美味いのです。

ラストの段落はなくていいと思います。てかぶっちゃけないほうがいい。なんだあれ。別に伏線もないし、いきなりあんなもんもって来られても興ざめするだけなんですが。
まあ、そこに至るまでの近親相姦めいた語らい…もさして淫靡でも面白くもない、ごく平凡な内容なんですが。あれなら愛田真夕美の「マリオネット」のほうが数段耽美で背徳的(←マンガと比較するなって。というか古すぎ)。
ぼっけえ、きょうてえ」の高いテンションはどこへ行ってしまったんだ岩井志麻子