『のら』入江紀子

幻の名作が、アスキーコミックスで全3巻として復活。

ものごっつ面白いのに、雑誌の休廃刊の憂き目とか、人気が出なかった等の理由で掲載誌を転々とすることになったマンガは数知れない。そしてほとんどの場合、未完のまま消えてゆき、マンガ文庫の形でひょっこり復活したりする。でも永遠に未完のままなのよね、これが。文庫化に際して書き下ろしてくれればいいのに、無理な注文だけど。ざっと思い出しても神崎将臣の「ゼノン」とか、奥瀬サキの「低俗霊狩り」とか、西村しのぶの「サード・ガール」とか。あああ。
「のら」もその一つ。私が読んだのは、最後の連載先だった「ビックコミックスピリッツ」なんだけど、あの頃はまだ「センチメントの季節」とか始まってなくて、「HAPPY!」が連載していたような。古いなあ。

「我輩はのらである、名前はまだない」。家もない。野良猫みたいな生活をしている女の子。気に入った相手にはふらふらとついていって、ごはんや寝床をもらっては、ふらりといなくなる。それでもちゃんと生きていけるのは、本能的に危険な相手と安全な相手を見分ける術を知っているから。

 最初に読んだとき、「おもしれーなあ、でもスピリッツじゃ浮いてるなあ」と思っていたが、単行本のあとがきを見ると、やっぱりあまり受けが良くなかったのかなあ……。

 とにかく次にスピリッツを手にしたときには、もう載っていなくて(つまりは1話しか読んでいなかったのだ)それでも「いつか単行本になるかな?」とずっと待っていた。まるで一夜限りの相手を静かに想い続けているみたいに。

だからこうしてまた出会えて、ホントに嬉しいっす。のら。こういうマンガって、ちょっと他にない。

雑誌を転々としているから、各雑誌の雰囲気に合わせて微妙にストーリーやキャラ設定なんかを調整している感じがする。個人的には2巻(コミックガンマ連載時の作品)が一番面白いと思う。3巻は若干説教臭いかな。

■ついでに紹介■
・『低俗霊狩り』奥瀬サキ(上下巻・未完)低俗霊狩り (下) (小学館文庫)
低俗霊DAYDREAMの原作者と認識している人も多いかと思いますが、低俗霊シリーズはもともとこの人のマンガなのです。連載開始直後と終了間際のすさまじい絵の変遷っぷりがこのマンガの多難な歴史を如実にあらわしている。

・『重機甲兵ゼノン』神崎将臣(全4巻・未完)重機甲兵ゼノン 1 (アッパーズKC)
神崎将臣ってどこいっちゃったんだろう?