2005年:印象に残った本

とは言ったものの、こんな話題だけではあまりにもあれなので。
今年出版されたものの中で(文庫落ちは含まず)、とりあえず現時点で印象に残ったものをつらつらと挙げたいと思います。小説も批評もノンフィクションもマンガも一緒くたで。

国家の罠 佐藤優国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて
今年もっとも耳目を集めた本の一つではないでしょうか。この本で日本の(特に対露)外交の実態や、また検察がどのようにして「国策捜査」を進めていくのか(犯罪者を作り上げるシナリオを構築するのか)をまざまざと見せつけられました。
これに対し、「国家の自縛」は、どうもいまひとつ納得できませんでした。どうにも彼が「外交ルール」というマジックワードにいささか頼りすぎているように見えてしまったのです(それは自分の外交問題に対する浅薄な知識のせいもあるでしょうが)。

アメリカン・ナルシス 柴田元幸アメリカン・ナルシス―メルヴィルからミルハウザーまで (アメリカ太平洋研究叢書)
『生半可な学者』柴田元幸氏のアメリカ文学論(と言い切ってしまうのはためらわれるのですが)です。『メルヴィルからミルハウザーまで』とサブタイトルにあるとおり、19世紀前半から現代に至るまでの文学において、アメリカ人が「自分とは」という問いかけをどのような形で考え、また語ってきたのかということを、様々なテキストを取り上げつつ論じています。
ある作品を、それ単体として評価しその面白さを享受することは、己が味覚で味わうことと同じように(大抵は)誰に教わるでもなくできるものです。しかし、当該作品を歴史という文脈の中で理解するためには、前提知識と(優秀な)ガイドナビゲータが必要です。柴田さんのこの本は、とても性能のいいナビゲータです。そしてこのようにして得た理解は、おそらく、単体としての作品の理解もより一層深めてくれるように思います。
自分はミルハウザーダイベックが目当てで読んだのですが、特に面白かったのは「ポオ」の「群集の人」と「ジャメイカ・キンケイド」の「小さな場所:第一章」に関する文章でした。

■夢幻紳士「幻想編」 高橋葉介夢幻紳士 幻想篇
今度は趣向を変えてマンガです。以前の日記でも取り上げましたが、夢幻魔実也氏が数年ぶりに復活されました。高橋葉介のあの妖しいタッチは健在。というかさらに魔実也氏の美しさに磨きがかかってます。
「幻想編」のためかいつものグロさはやや後退。変わりに夢と現実の境目のない、ゆらりとした味わいが楽しめます。

■白骨花図鑑 甘糟幸子白骨花図鑑
こちらも以前日記で取り上げました。69歳の新人作家の短編集です。
作者のプロフィールからの先入観では、達観した感じの内容なのかな……と思ってましたが、ううん、描かれている感情の生々しさと視線の鋭さ(というか容赦のなさ)にかなり驚きました。
どの作品も人よりむしろ花の印象が鮮烈です。